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仙台高等裁判所 昭和39年(ネ)93号 判決

控訴人 塩常寺

被控訴人 斎藤塚治 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人らは控訴人に対し原判決別紙目録記載の土地を同地上に存在する墓石を収去して明渡し、かつ連帯して金一万二、四四八円を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の陳述、証拠関係は原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

被控訴人らが共同して村山市大字河島元杉島字舟久保一二三一番墳墓地中原判決別紙物件目録記載の部分に墓石を存置してこれを墓所として使用していることは当事者間に争いがない。

そして成立に争いのない甲第一ないし第五号証、乙第一号証、原審証人矢口廉二、矢口謙次郎(第一、二回)の各証言、原審における控訴人代表者本人尋問の結果並に検証の結果を総合すると、控訴寺院は民法施行以前に設立せられ、昭和一四年法律第七七号旧宗教団体法、昭和二〇年勅令第七一九号宗教法人令、現行宗教法人法下にあつても一貫して同一人格の法人として存続しているものであること、前記一二三一番墳墓地は古くから控訴寺院の所有に属していたこと、被控訴人らの居住する元杉島部落の住民らの墳墓はもと戸毎に各自の所有地内に設置されていたが、明治三五年頃同部落の属する南郷村の村長滝田敬助はこのような各所に散在する墓地を一個所にとりまとめようとの方針から前記一二三一番墳墓地その他控訴寺院所有の二筆の土地につき同年一月八日付をもつて所轄山形県知事の墓地設置の許可を得たうえ、被控訴人らまたはその先代らを含む同部落民らに対し控訴寺院の檀徒たると否とを問わずその墳墓を右土地に移転するよう指示したので、右部落民らはこれに従いその頃から約十数年の間に当時の控訴寺院の代表者板垣伝隆の承諾のもとにその墳墓を右土地に移転し、被控訴人らまたはその先代らも墳墓を前記一二三一番墳墓地中原判決別紙物件目録記載の係争墓地に移転したこと、以来被控訴人らまたその先代らは控訴寺院に対価を支払うことなく右墳墓設置の地域を共同の墓所として使用し来り、控訴寺院においても伝隆以後数回にわたる住職の交替があつたが、昭和三四年現住職の控訴寺院代表者板垣恵明が被控訴人らをはじめ右土地内に墳墓を有する一部の者に新たに控訴寺院との間に賃貸借契約を締結するよう要求してこれに応じない被控訴人らに対し右係争墓地の明渡を求めるに至るまでは終始右使用を容認してきたこと、が認められる。

右事実によれば、被控訴人らまたはその先代らがもと控訴寺院代表者であつた板垣伝隆との間に、本件係争墓地を目的として、これに被控訴人らまたはその先代らの祖先の墳墓を設置する墓所として使用するため存続期間の定めない使用貸借契約を結んで、これに基き右係争土地部分を使用してきたことを推認することができる。そしてこのような土地を墓所として使用するための使用貸借においては、墳墓の永久性からいつて、特段の事実がないかぎり、一般に民法五九九条の適用を排除する特約が存するものと解すべきであるから、たとい右使用貸借が被控訴人らの先代らが借主となつて締結したものであつても祖先の祭祀を主宰する被控訴人らにおいて右使用貸借に基く本件係争墓地の使用権を承継したものと解すべきである。

そうすると、被控訴人らは使用貸借契約に基き無償で本件係争墓地上に墓石を建設所有し墓所として占有使用する権原を有するものと言わなければならない。

次に控訴人は本訴を以て本件係争墓地の使用貸借契約を解除する旨主張するから按ずるに墳墓の存置を目的とする墓地の使用貸借は、特に返還時期の定めがあつたことを認められない本件においては、墳墓が存置せられてある限り契約に定めた目的による使用収益を終わらないものと解すべきは当然であるから、民法五九四条三項等一定の解除事由がない限り貸主は一方的に使用貸借契約を解除することができないこともちろんであり、本件においてかかる解除の事由が存在することについては、なんらの主張立証もないから、右主張もまた採用のかぎりではない。

よつて、被控訴人は本件係争墓地上に墓石を所有し係争墓地を無償で墓所として使用する権利を有するものであること前叙のとおりであるから、被控訴人らに対し、本件係争墓地上の墓石を収去して右墓地を明渡すべきことを求めると共に被控訴人らが本件係争墓地を不法占拠していることを理由として不法占拠による損害賠償として金一万二、四四八円の連帯支払を求める控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、これと結論を同じくする原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、民事訴訟法九五条、八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 新妻太郎 須藤貢 小木曽競)

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